3rdNight ThePiecesOfDreams
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沢木は辛うじて一命を取り留めたようだ。 当面一安心という所だが…走り屋達の間の動揺は、かなり大きなものだった。 難馬も健三も、比較的まともそうな連中は、揃っていつもと様子が違う。 健三に至っては、走るのが怖いとまで言い始めている。それが普通だ。安心しろ。 平気で走り回っているのは藤沢くらいのものだ。う〜む…流石は伝説の男。
奴も問題ではあるが、そういう人間に相談しようという翔も、ある意味問題だ。 「自分の気持ちを確かめる」などと言っているが、藤沢に相談する時点で、 既に行き先は決まっているようなもんだと思うがなぁ。
藤沢を求めて横浜をさまよう翔。 とりあえず藤沢のマンションに行ってみるが、やはり藤沢はいなかった。 夜行生物だからいないのは予想範囲内だが、 何故リヤデフューザーを抱えて降りてくるんだ、翔?上で一体何が…
その後翔は、何かに憑かれたように、走り屋を見付けては手当たり次第にバトルを挑む。 そう、あの悪夢を忘れようとしているかのように…。 で、その結果が¥5,193,000という所持金に反映されていたりするのだな、これが。 走り屋で一財産築いたなんて話は聞いた事がないが…この街なら可能らしい。
ボディショップ・ムラオカに足を運んでみると、沢木のSil-14が置いてあった。 いや…Sil−14だったものと言った方がいいかな…。要するにもう鉄屑だ。 今鉄屑は安いぞ。鉄鋼メーカーの買値が、トンあたり8000円くらいだ。 大体800kgくらいが鉄だとして…8000×0.8=6400円。これに運賃、処理料、問屋の取り分… うう…悲惨だ。同じクルマとして、まだまだあんな風にはなりたくないものよのう。
ところで沢木のクルマは、これまでムラオカの親父が手を入れてきたらしい。 その親父が、見た事のないパーツが使われているのを、不審がっていた。 …何か引っかかるな。昨日外国人墓地の前で、石川兄弟が話していた事… ショータイム…
これには翔も疑惑をおぼえたようだ。 すかさず本牧埠頭−NRの本拠地−へと向かう。
石川弟「赤碕……!?何しに来やがった!!」
目ざとく翔を見付けた石川弟が、いかにも雑魚チックな台詞を吐く。
翔「…お前達……何をしようとしている? 」 なんか…もっと他に聞きようがあるだろうに。
翔「ショータイム……どういう意味だ?」
大体わかりそうなもんだけど…わざと聞いているのだろうか。
石川弟「うるせえ!! なぜ沢木はお前なんかを……!! …クソッ…!」
石川兄「沢木の野郎はいつも言ってたっけ…マジ、でっけえ声でなあ。 『オレたちにはオレたちなりのやり方があるよな! 走ろうじゃねえか! それで全て解決よう!』 ………ってなあ」
石川弟「……ショータイム……オレ達なりのやり方だ!」
…めいめい勝手にルールを決めているわけか。社会秩序ってなんだろう…。
石川兄「ここに来たからにはそのつもりで来たんだろうが?」
ぬう…結局はそこに行きつくわけか。単純でいいと言えばいいが…。
とにもかくにも、クルマの性能が違いすぎる。 いくら翔の腕が少々(洒落ではない)アレでも、かなりの余裕を持って勝利できるはず… であったが、結果は意外にも辛勝であった。 くっ…これにはクルマとしてのプライドを傷つけられたぞ。 おそるべし謎パーツ。
だがどのような形にせよ、勝ちは勝ちだ。 さあ、色々と話してもらうとするか、負け犬ども。 しかし、こいつらの往生際の悪さは、想像以上だった。あくまで「関係ない」の一点張り。 おーい、走り屋の掟はどうしたんだ? 翔が「ショータイムの意味」しか聞いていないのに、「沢木の事故はてめえのせいだ」とか口走ったり、 深すぎる墓穴を既に掘っているのになあ…。 でも証拠がない以上、追究のしようもない。諦めるしかないのか。無念。
悔しい気持ちなのは翔も同じだったらしく、しつこく5回も石川兄弟を叩きのめしたのであった。 根に持つタイプだな、こいつ…。 だがこれで石川兄弟も、己の罪深さを思い知ったであろう。
結局、なにやら無駄な時間を過ごしてしまった感がなくもない。 石川兄弟の財布を軽くしただけだもんな。面白くはあったけど。
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