3rdNight ThePiecesOfDreams
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さて、沢木の容態はどうであろうかのう… などと私が考えていると、翔も気になっているのだろうか、追い剥ぎをしながらも、いつの間にか病院の前に来ていた。
…お、病院の前に止まっているのは…辻本のX1800ではないか。 なるほど、本牧にいなかったと思ったら…こういうわけか。
翔「辻本……」
辻本「ああ……赤碕、おまえか……」
4歳も年上の自分を呼び捨てにする翔に対して特に怒るでもなく、辻本は気の抜けたような声で返事をよこした。
辻本「とうとう病室には入れずじまいさ……。追い出されて当然か……」
翔「…………」
辻本「沢木をチームに引っ張ったのは俺なんだ……。 あいつの運転はあの頃のまんまだゼ……。荒削りでよ……突っ込み勝負の勢いだけなんだ。 俺達……まだまだ速くなるゼって、いつもな………… リタイアするには走り足りない……ゴールのチェッカーは振られちゃいない…… そうだろ……なあ、沢木…………!!」
…ゴールってどこさ? とらえ方によって色々あるとは思うが…沢木のゴールは今、三原葉子とのデートだ。 辻本、お前が望む沢木像からはちょっと離れつつあるが…いいのか? そうそう、三原葉子といえば、一週間で退院したら沢木とデートしてやってもいいとか… 無理に決まってるだろうが。 知ってて言ってるのだろうか。酷い女だ。 …いや、でも、沢木なら気合の入り方次第で可能かもわからんが。
藤沢のRSは、意外にも簡単に見付かった。 あの外国人墓地の近くに「港の見える丘公園」があるが、そこだ。 葵は一人になれる場所にいると言っていたが… に、似合わねえ。 まあ、人の勝手だからいいけど…。
藤沢を見付けた翔は、なにやら足取りも軽く近寄っていく。 心なしか、由佳に会う時より嬉しそうなのは私の気のせいだろうか?
翔「藤沢先輩……」
藤沢「知ってるか、翔?10年前、とびきり速い男がいた……。 ……そいつは第三京浜の多摩川コーナーを5速全開で抜けていったんだ。 一緒に走っていたヤツら、口を揃えてこう言ったね。 『あいつはクレイジードライバー…命知らずの大馬鹿野郎だ』ってね……」
ああ、それなら知っている。「横浜最速伝説」だろう? もう聞き飽きた。 こいつら、他に話す事はないのか。
藤沢「……俺はそいつの記録を塗り替える…… どこまで続くかわからない。そこに行けば、何があるかわからない。 ……それでも、オレは走る……最速の彼方に真実があるなら走り続ける……知るために。 ついてこいよ、翔」
ああ、あああ〜っ、目が輝いてるじゃないか、翔! 走るのに理由はいらねえって、誰かに言いたそうな、あの顔! 駄目だ…あれは洗脳されている。
まったく…うまく焚き付けられたな。予想通りではあるが。
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