1stNight
Midnight PlusOne


-1-


 翔にしてみれば、藤沢にテールランプも拝めないほど離されたというのは、実の所結構ショックだったようだ。
 まあ、悔しいと言うより、あまりの圧倒的な力を前に、畏怖の念を抱いたと言う方が正しいか。
 …に、しても、根本的にクルマの性能が違うんだけどな。
 藤沢のRS2000turboも私に負けず劣らず古いクルマだが、あっちはハイパワースポーツモデル。こっちはライトウェイトスポーツだ。
 テクでどうにかなる部分とならない部分は、きちんとわきまえてくれよ、翔。

 ところで翔は、今夜もあの埠頭に来ていた。
 昨夜は改造車の品評会みたいな光景が展開されていたが、今日は至って静かなものだ。地面に僅かに残る黒いタイヤの筋が、唯一その名残をとどめている。
 一際目立つスピンターンの跡…藤沢もタイヤ代が大変だろうな…。

 感化されつつあるのはいいが、早速出鼻をくじかれてしまった翔。
 なんとなく拍子抜けしたような表情を見せる翔の胸ポケットから電子音が漏れる。
 無言で懐から携帯電話を取り出す翔。
 でかい携帯だな、おい。砥石かと思ったぞ。
 何年前の代物だ?重量も1kgはありそうだぞ。歯車でも入ってるんじゃないか?
 まあ…道具というのはデザインと実用性の二面があって、特に携帯電話のような種類は、一時期デザインに特化していくものだ。
 普及するに従って、最終的には使い易い大きさと形がバランスされるのが普通だが…。
 小型化の反動が大きすぎたんだろうか。世紀末の横浜には不思議な物があるな。

 電話の相手は健三らしい。そう、山田健三だ。妙に馴れ馴れしいが憎めない、あの少年。
 僅かに声が漏れて、私にも聞こえる。

健三「あっ……赤碕〜、おれ、今『外国人墓地』にいるじゃんか。大変な事になっちゃった!」

 …と、少し間を置いて、健三とは別の声が割り込んできた

「おい!お前!BayLagoonRACINGの最遅野郎だな!」

健三South YKで一番見晴らしのいい小高い丘の外国人墓地
じゃんか……早く助けに来てくれ……」


 そこで電話は切れた。丁寧な説明ありがとう、健三君。
 ところで墓地…だよな?基地…じゃなくて。フォントが潰れていて判別がつかないという声が…いや、こちらの事だが。

「外国人墓地……?なんだ、あいつ?」

 翔は勝手に切れた電話を見詰めながら呟いた。

「電話は苦手さ…。電話番号なんて面倒なもの覚えちゃいないし、番号メモリの仕方も知らない」

 なら何故携帯なぞ持っている?
 わざわざ安くない契約料を払って、苦手なものに縛られる事もなかろうに。自分のオーナーでありながら、私はコイツがよくわからない。

 その時だった。突然四筋の光条が闇を切り裂き、二台のクルマが埠頭に飛び込んできた。
 70kmくらいから一気に急ブレーキで、翔の目の前に止まる。
 危ないだろうが!それにブレーキパッドの減りもバカにはならんぞ。
 どこかで見たような、赤いGRAは…間違いない。硬派だ。
 そしてもう一台…


 一見いつもと変わらない横浜の夜。しかしごく一部では、次第に波瀾の匂いが充満しつつあるのだった。





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