6thNight
NightBefore D


-5-



Noth YKで偶然出会った鈴木由佳と、「いつもの場所」で待ち合わせをする事にした翔。
走り込みはどうした。それから石川兄の事は。
走り込みもせずに女と待ち合わせとは。大した自信だな。

それにしても…「いつもの場所」とは一体?
私の知らない間に、それで通じてしまうほど会っていたのか?
で、翔が向かったのは、大観覧車の所だった。


由佳「赤碕、変わったよねっ」

板金屋見習いの鈴木由佳が、明るくそう言った。変わった…か?
今、MicroGTを挟んで反対側、「背を向けて語る男」を演出している翔…
どう見ても以前のままとしか思えんが。

由佳「急にたくましくなったみたいな……そんな気がするんだ」

うーん…躊躇いなくパーツを奪い取るようになった点は…そうとも言えるか。

由佳「前の赤碕…世の中はつまらないんだって、そんな目をしてた」

「……そうか……?」

その後、二人の会話…というか、由佳の一方的なお喋りが続く。そして最後に、

由佳「赤碕、ハイコレっ!プレゼント!! 板金屋のおじさんに譲ってもらったんだ」

と言って彼女が差し出した物は……
シャーシtype-AZ660



どう持って帰れちゅうねん。
大体だ、この前の族マフラーといい、リヤディフューザーといい…
もらえばいいってもんじゃない!

ええい、とにかくだ、シャーシをプレゼントするような女はやめとくが吉だぞ。





あまりにも充実しすぎた夜に疲れたのか、ベイラグーン埠頭で休もうとする翔。
とその時、携帯電話の呼び出し音が。律儀に出る翔。電話キライなくせに。

???「……赤碕よう……赤碕よう……」

!!!!!?

「……難馬さん!?」

え?難馬? …そうか、どうりで聞いた事ある声だと思った。
いや、でも難馬の霊かもしれん。油断はならんぞ。

難馬「聞こえるんだ…………声が……」

「難馬さん……今どこに……?」

難馬「…………赤碕よう……声が……聞こえるんだ」

本格的にオカルトじみてきたなぁ…あの世からの呼び声か?

難馬「聞こえるんだ……」

「難馬さん……?」

そこで電話は切れた。これは一体…

「難馬さん……どうしちまったんだ……?」

翔が沈黙に堪り兼ねたかのように疑問を口にした瞬間、青白い閃光のようにヘッドライトの光が周囲を照らし出す。

「何だ!?」

あのクルマ…今夜2度出会った、あのTUNED CAR…。やはりあれは難馬か。
どうやらナンバーも難馬のSEVENと同じのようだ。
翔は急いで私を発進させ、後を追う。暖機運転ぐらいしろ!

SEVENは、しばらく先導するように前を走った後、沢木が事故を起こしたコーナーでハザードを出し、止まった。
ゆっくりとパワーウインドゥが降りていく。そこに現れたのは、変わり果てた難馬の顔だった。
僅か数日でごっそりと頬が削げ落ち、眼の下には隈がくっきりと。
まるでデーゲームのプロ野球選手みたいだ。


難馬「赤碕よう……俺はわかった……」

いや、こっちもわかったから、ちょっと落ち着け。
だが難馬は焦点の定まらない目で話を続け、結局何故か翔と難馬はレースをする事になった。
なんでそうなる。
まあ…難馬たっての頼みだし、ヤツがそれで満足するのならいいか。



とはいうものの、難馬の速さたるや尋常なものじゃない。
800psに迫ろうかという私のパワーを持ってしても、まるで追い付けない。
いや、正確に言えば直線では何とか離されずに付いていけるが、コーナーでのスピードが全然違う。
この辺は…腕の差…なのかな…
いや、さっきもらったプレゼントのせいに違いない!
慣性質量の増大によってコーナーリングが悪化しているのだ!
おのれ鈴木由佳!この恨み、はらさでおくべきか!

難馬はしばらく走ると、そのまま夜の闇に消えていった。現れた時と同じように。


結局問題は何一つ解決しないまま、横浜GPの予選を迎える翔であった。

The Night is COMPLETED




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