Noth YKで偶然出会った鈴木由佳と、「いつもの場所」で待ち合わせをする事にした翔。 走り込みはどうした。それから石川兄の事は。 走り込みもせずに女と待ち合わせとは。大した自信だな。
それにしても…「いつもの場所」とは一体? 私の知らない間に、それで通じてしまうほど会っていたのか? で、翔が向かったのは、大観覧車の所だった。
由佳「赤碕、変わったよねっ」
板金屋見習いの鈴木由佳が、明るくそう言った。変わった…か? 今、MicroGTを挟んで反対側、「背を向けて語る男」を演出している翔… どう見ても以前のままとしか思えんが。
由佳「急にたくましくなったみたいな……そんな気がするんだ」
うーん…躊躇いなくパーツを奪い取るようになった点は…そうとも言えるか。
由佳「前の赤碕…世の中はつまらないんだって、そんな目をしてた」
翔「……そうか……?」
その後、二人の会話…というか、由佳の一方的なお喋りが続く。そして最後に、
由佳「赤碕、ハイコレっ!プレゼント!! 板金屋のおじさんに譲ってもらったんだ」
と言って彼女が差し出した物は…… シャーシtype-AZ660
どう持って帰れちゅうねん。 大体だ、この前の族マフラーといい、リヤディフューザーといい… もらえばいいってもんじゃない!
ええい、とにかくだ、シャーシをプレゼントするような女はやめとくが吉だぞ。
あまりにも充実しすぎた夜に疲れたのか、ベイラグーン埠頭で休もうとする翔。 とその時、携帯電話の呼び出し音が。律儀に出る翔。電話キライなくせに。
???「……赤碕よう……赤碕よう……」
!!!!霊!?
翔「……難馬さん!?」
え?難馬? …そうか、どうりで聞いた事ある声だと思った。 いや、でも難馬の霊かもしれん。油断はならんぞ。
難馬「聞こえるんだ…………声が……」
翔「難馬さん……今どこに……?」
難馬「…………赤碕よう……声が……聞こえるんだ」
本格的にオカルトじみてきたなぁ…あの世からの呼び声か?
難馬「聞こえるんだ……」
翔「難馬さん……?」
そこで電話は切れた。これは一体…
翔「難馬さん……どうしちまったんだ……?」
翔が沈黙に堪り兼ねたかのように疑問を口にした瞬間、青白い閃光のようにヘッドライトの光が周囲を照らし出す。
翔「何だ!?」
あのクルマ…今夜2度出会った、あのTUNED CAR…。やはりあれは難馬か。 どうやらナンバーも難馬のSEVENと同じのようだ。 翔は急いで私を発進させ、後を追う。暖機運転ぐらいしろ!
SEVENは、しばらく先導するように前を走った後、沢木が事故を起こしたコーナーでハザードを出し、止まった。 ゆっくりとパワーウインドゥが降りていく。そこに現れたのは、変わり果てた難馬の顔だった。 僅か数日でごっそりと頬が削げ落ち、眼の下には隈がくっきりと。 まるでデーゲームのプロ野球選手みたいだ。
難馬「赤碕よう……俺はわかった……」
いや、こっちもわかったから、ちょっと落ち着け。 だが難馬は焦点の定まらない目で話を続け、結局何故か翔と難馬はレースをする事になった。 なんでそうなる。 まあ…難馬たっての頼みだし、ヤツがそれで満足するのならいいか。
とはいうものの、難馬の速さたるや尋常なものじゃない。 800psに迫ろうかという私のパワーを持ってしても、まるで追い付けない。 いや、正確に言えば直線では何とか離されずに付いていけるが、コーナーでのスピードが全然違う。 この辺は…腕の差…なのかな… いや、さっきもらったプレゼントのせいに違いない! 慣性質量の増大によってコーナーリングが悪化しているのだ! おのれ鈴木由佳!この恨み、はらさでおくべきか!
難馬はしばらく走ると、そのまま夜の闇に消えていった。現れた時と同じように。
結局問題は何一つ解決しないまま、横浜GPの予選を迎える翔であった。
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