夜のGSミラージュ。アスファルトの路面を激しく雨が叩く。 BLRのメンバーは今夜はここに集まっていた。 …屋根のある場所なら、他にいくらでもありそうなものだが。 怪しげな改造車で乗りつけたら商売の邪魔だと思うけど…。
待合室の中は、重苦しい雰囲気に包まれていた。 そりゃあそうだろう。知り合いを一晩のうちに2人も亡くせば、誰だって明るくしてはおれまい。
由佳「ねっ! みんなっ!ほらっ! 元気だして! これ見てよっ!」
この空気に堪えかねたのか、不自然に声を弾ませた由佳が、テーブルの上の新聞を指す。 健三の愛車みたいな、注目度だけは高い色使いのスポーツ新聞。 その一面には、横浜GP予選結果!!という文字が踊っている。 ええ?そんなにメジャーなネタなのかっ?…と思ったら、左上の方に「横浜スポーツ」とある。 なんだ、やっぱりローカルネタか。 しかし330万も人がいて、もっと他に話題はないのだろうか…。
由佳「見てっ見てっ!藤沢先輩の名前がこんなに大きく!!」
なるほど、中央やや左のカコミに、藤沢の顔写真が載っており、「最速の男藤沢一輝余裕の観戦」などとコメントが添えてある。
由佳「あっ!! 赤碕の名前も出てるよっ。 ほら、そのまんなかのところ。 『横浜GP本選!!期待の新星』だって」
それはいいが…予選1位より、見てただけの藤沢の扱いが大きいのは納得いかん。 に、しても「走り屋の祭典」とは…。いつからこんなに走り屋の地位が向上したんだろうか。
健三「ん!! ちょっと待った!!」
しげしげと紙面を眺めていた健三が、間に割って入る。 どうした?間違ってもお前の記事はないと思うが…。
健三「この記事…………難馬さんの事故のニュースじゃんか……」
おお、確かに、下の方に、「走り屋事故続出」という見出しの記事がある。 横浜GPの盛り上がりと同調して過熱した走り屋同士の公道レースから、多くの犠牲者が生まれているという内容だ。 難馬のdivingも、その事故の1つとして簡単に紹介されていた。
由佳「興味本位の記事…………やな感じ。 もういいよっ!やめよ」
そうか?スポーツ新聞にしては冷静な内容に見えるぞ。
「死へのDRIVE! 過激なTUNEUPが影響か?」 という文に、記者の非凡なセンスを感じる。 もっとも、私は横浜GP云々より、パーツの奪い合いに原因があると見ているが。
翔「ちょっと待て……この隅の記事………」
それまで無言でいた翔が、珍しく自分から口を開いた。 そこには「10年前の悪夢の再現……?呪われた『横浜最速伝説!』」 と見出しを付けられた記事が、件の事故と関連付けられる形で載せられていた。 それによると、10年前にも走り屋の事故が多発した時期があり、その時存在した正体不明の走り屋の話が、「横浜最速伝説」と呼ばれるようになったらしい。
こうなると話が妙な方向に行くのは、人類共通だったりする。
由佳「たたりみたいなものなのかなっ? あるじゃないっ… 道路にまつわる怪談とか霊体験とか……」
オマエも十分興味本位じゃねーか!由佳!
翔「難馬さんは、俺に……【声】が聞こえるって……言ってた。【声】からは逃れられないって……。 なんの意味があるのか……わからねえけど……」
藤沢「憶測でものを言うのはやめろ!! 『横浜最速伝説』と難馬の事故に関連性などあるはずがない。 あるのはただ一つの事実だ。難馬とはもう2度と走れない……アイツはもう……オレ達の側にはいないんだ……」
いや…そうとも限らないぞ。ほら…お前の後ろに難馬が…… ぎゃーーーっ(楳津かずお調)
その時、雨粒のカーテンを突き破り、漆黒のSW2000がドリフトしながらGSに入ってきた。 普通に入ってこい。ドリフトせねば曲がれんのか、こやつら。 ウインドゥが降りて、真っ赤なバケットシートに身を置いた、眉のない男……
ああ…また変なのが…
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