LastNight The Long Good-Bye
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10年前、横浜に突然現れた、Zeta3000。 不気味なエアロパーツと命知らずの走り。いつしかそのクルマのドライバーは、 「横浜最速の男」と呼ばれるようになった。
しかし不思議な事に、「横浜最速の男」がどこの誰であるのか、顔も名前も、知るものは一人としていなかったという。
何度も大きな事故を起こし、その度に生還した「横浜最速の男」は、 ある日、未明の横羽線のなんでもない直線で、あっけなく死んでしまった。 その時最後尾にいたらしい等々力の話によると、それはクルマの火葬場みたいだったという。 何台ものクルマが一斉に炎上し、空を赤く染め上げた… その夜の事は、10年を経た今でも語り継がれている。
…と、まあ、これが横浜最速伝説のあらましだ。 これまで我々は、難馬や沢木、藤沢の事故、それに翔に取り付いた【声】… それらの謎を解き明かすために、北海道旅行までしてきた。 そして、DARKNESS GPを制覇した今、全ての謎が明らかになった。 以下が、翔がWON-TEC本社で聞いた真実である。
10年前、WON-TECで進められていた、ある計画… ある種の薬物を投与する事で、恐怖や不安といった感情を取り除き、人間の力を100%引き出す計画。 …それに使われる薬物のコードネームが「Diablo」である。 計画は順調に進んでいたが、ある事故をきっかけに、その致命的な欠点が露呈する。 極度の緊張状態になると、過剰反応が起きて、急激に精神が不安定になるのである。 …それが、難馬の兄の事故だ。これが難馬を走り屋へと歩ませるきっかけになる。
その後、「Diablo」のデータを集めるため、その実験サンプルに利用されたのが、走り屋達だ。 簡単に緊張状態に置く事ができ、低コストで処理できる…この条件に彼らはぴったりだった。 難馬の兄が、既に「DiabloTUNE」として触れ回っていたため、サンプルは苦もなく集まる。 彼らは一台づつ、WON-TECの用意したDiabloZetaに乗せられ、街に送り出される…。 そう、「横浜最速の男」は、単なる使い捨ての実験体。その集合体だったのである。
だが、そうした実験の結果は悲惨なものだった。 走り屋達は次々と事故死し、最後には集団で脱走したあげく、未明の横羽線での大事故。
結局「Diablo」計画は、予算がオーバーした事もあって、10年間の凍結を余儀なくされた。 横羽線の事故で、唯一生き残った実験体と共に。
10年間眠らされていた実験体は、計画の再開と共に目覚めさせられた。
「赤碕 翔」として…。(疲れた…)
ええっ? つまりあの【声】は、単なる二重人格だったって事か! まあ…確かにそんな気はしないでもなかったが…なんつー結末だ。 それにしても、本当に連中の言う通り、翔が10年前の実験体だとすると、コイツの私生活って…どうなってるんだろうか? 孤児で現在は一人暮し…というような記憶を植え付けているのかもしれんが。 大体、貴重な実験サンプルだというのに、また走り屋なんてやらせてていいのか? しかも、記憶の操作から始まって、データ採取のためか、石川兄弟を使って裏から色々と… 極度の緊張状態に置けば良いだけの話なのだから、もっと他にやり方がありそうなもんだが。 結局、こういう回りくどいやり方が好きなだけだな、多分。
疲れる連中だ…。
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