FinalNight The End Of Sweet Dream
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Lastの次がFinalだって? まるで漫画みたいじゃないか。 終わりを匂わせておいて…やり方が姑息だ。 …などと、誰が相手だかわからない文句を言っても仕方がないので本筋に戻ろう。
ベイラグーンタワーの地下は、ある施設に改造されていた。 鉄格子のはまった牢屋や、頑丈な鉄扉に閉ざされた多くの部屋… そう、ここがDiablo計画の本拠地だったというわけだ。 10年前に不審な事故が相次いで、建設途中のまま放置されたベイラグーンタワー。 実はこんな秘密が隠されていたのであった。
私は地下の駐車場に運び込まれた。後で処分しろとは、ラッシュの指示だ。 ぐわ、冗談じゃない!翔は何をしているんだ!
いっぽうそのころ…
某RPG風に場面転換してみたが、結局語るのは私だ。 クルマとしての視点から逸脱してるって?ええい、もう知るか!滅茶苦茶なのはお互い様だ。
翔「……ここは……?」
目覚めた翔がいるのは壁や天井を走る無数のパイプ、淡い光を放つ見慣れない機械などが、 狭い空間に押し込められている部屋だった。
シュナイダー「我々の声が聞こえるかな?」
壁に取り付けられたスピーカーから、シュナイダーの流暢な日本語が響く。
シュナイダー「『君』の目の前にある鏡の壁は、フィルムを映写できるように仕掛けが施してある。 『君』が見た映像は……『君』が誕生した時のものだ」
一応補足しておくと、少し前に、カプセルの中に満たされた液体の中に翔と思われる男が入っている映像が、壁に映し出されていた。 もっとも、うつぶせに倒れていた翔がそれを見たかどうかは定かではないが。
ウォン・リー「無様なダンスはやめたらどうかね? 君が知るべき話は、まだ終わったわけではない」
声がどこから聞こえてくるのかわからなくて辺りを見回す翔を、ウォン・リーがそう、評した。
翔「そこにいるのか……?俺の事……あざ笑ってやがるのか?」
シュナイダー「先程の映像で『君』が入っていた水槽の製品番号は、SLPS-02038。 当時は実験段階だったD-Sleepシステム……。 一般に、コールドスリープと呼ばれる種の保存システムに近いものと理解してもらって構わない」
…実験段階だったという事は、今は実用化されている…? こっちを売り出した方がDiabloより儲かるんじゃないだろうか。
シュナイダー「WON-TECのD-Sleepシステムは、常温に近い特殊な溶液の中でヒトを保存する。 母体の中にいる感覚に近いものだ。ヒトはその中で生体活動を停止し、 細胞を拡散状態にする事により……肉体的な成長を限りなく長い時間、ペンディングすることができる」
翔「やめてくれ……それ以上……俺は聞きたくない……」
そうだ!話が長いぞ、貴様。いらん事をべらべらと…。
今わかったが、コイツは解説型で、藤沢の演説型とはちょっと違う。 鬱陶しいという点では、限りなく同様ではあるが…。
シュナイダー「理論などどうでもよいと?ならば結果から話そう」
最初からそうしろ。
シュナイダー「『君」の見た映像の中、D-Sleepカプセルに安らかに眠る男…… 『彼』が『君』の身体の本当の所有者だ」
翔「冗談じゃねえ…………俺は赤碕 翔。 他の誰でもあるわけねえ!」
シュナイダー「なるほど……生意気に自我を語るようだな。 そうだ……確かに『君』の名は……『赤碕 翔』……D-Sleep中の意識…… 『彼』の意識の集合体の上層部位に我々が創り出した擬似意識。 『彼』の肉体に一時的に宿り、やがて元の『彼』の意識に違和感なく取り込まれる……」
そして、また壁に映像が映し出される。キーボードを叩くシュナイダーと、北海道で射殺された、あの男。
シュナイダー「『君』が見ているのは、10年前の我々の映像だ。 D-Sleepの最中、『彼』の意識は重度な催眠状態にある。 催眠状態にある意識に、虚偽の事項をインプットする事は簡単な事だ。 意識がそのヒトを構成していると仮定するならば………… D-Sleep中にヒトを作り替える事が可能になる」
…生体活動が停止してるのに、催眠状態も何もあったもんじゃないと思うが… ある程度調節できるもんだという事で、納得しておこう。
シュナイダー「『君』の誕生の意味を求めるならば、何より貴重な『Diablo』の抗体情報を守りたかった…… 我々の『最後の希望』である『彼』を守りたかった。奪われた10年を被害と考え、自ら命を絶つ…… 或いは……理解できずに正常な状態に戻れない無惨な失敗事例となる事への予防策。 一時的に『君』の意識を創り出す事で、D-Sleepからの目覚めの時、10年の時の経過の違和感をなくす。 『君』の役目の一つは、『彼』の経験との融合だった」
…事故で死ぬかもしれないとは、考えなかったのだろうか。
シュナイダー「それに……もう一つ……『彼』には特殊事情があった。 『彼』は……たくさんのDriverの中の一人。何一つ素性のわからぬ……危険人物だ。 『君』の意識で抑えておく必要があった。 D-Ploject凍結の夜の『彼』の行動には、今だ不可解な点が残されている。外因的なミスの確率は低いにこした事はない。 もっとも、『君』が正常意識であるという保証もないのだが……」
うん、それは同感だ。
ウォン・リー「ご苦労だった……『君』の役目はここでおしまいだ」
シュナイダー「……『君』には消えてもらう……今……ここで……」
危うし赤碕翔!このまま消されてしまうのか? ただ、どちらが持ち主でも、私にとっては大した違いはないんだよな…。
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