| ■方程式を代数的に解く |
| 前節では、Xn−a=0という形の方程式の解法を示した。このような根(解)を求める操作をべき根を求める演算という。 |
| 次に、anXn+an−1Xn−1+……+a1X+a0=0(an≠0)というような形の一般の方程式が代数的に解けるか否かということは興味あることであろう。 |
| この左辺がXに関するn次多項式(あるいは単に、n次式ともいう)であるから、上記の方程式はn次方程式といわれる(未知数Xは不定元と呼ばれ、その不定元が1つであるから、正確には1元n次方程式といわれる)。 |
| 最高次の項の係数(主係数という)が1である多項式はモニック(monic)と呼ばれる。 |
各係数がそれぞれ有理数・実数・複素数の場合には、主係数で多項式を割ってやれば、
Xn+(an−1/an)Xn−1+……+(a1/an)X+(a0/an)=0
であり、各係数(ai/an)は再びそれぞれ有理数・実数・複素数になり、もちろんこれと最初の方程式は同じ根を持つので、予め最初からモニックを考える場合も多い。 |
| ここで、代数的に解けるという意味は、各係数から四則演算(算術的演算)とべき根を求める演算(これらを合わせ、代数的演算と呼ぶ)を有限回行って、方程式の根を求めることができることをいう。注1 |
| 注1 |
| 「複素数の範囲では複素係数n次式が1次式の積に分解できる」という今日、代数学の基本定理と呼ばれる定理をガウスが証明している。 |
| aj∈Cなるn次式anXn+an−1Xn−1+……+a1X+a0(an≠0)が複素数の範囲でan(X−α1)(X−α2)・……・(X−αn)などと分解できるので、n次方程式が重根(重解)を考慮し、α1,α2,……,αnというn個の根を持つことを代数学の基本定理は保証している。が、それは根の存在を保証しているのであって、代数的に解けることと等価ではない。 |
| また、複素数まで範囲では多項式は1次式の積に分解されるが、どこまで数の範囲を広げれてやればよいかという判断も重要な点である。 |
| 例えば、X2+1は複素数の範囲では(X+i)(X−i)となるが、有理数や実数の範囲では既約であり、X2−2は複素数や実数の範囲では(X+√2)(X−√2)と分解できるが、有理数の範囲では既約である。 |
| 中学や高校などで、まず習う因数分解や因数定理による解法があるが、それには限界が伴っていて、特別な場合でしか解法を与えることはできない。 |
| そこで、nがごく低次の場合には代数的解法、即ち、根の公式があることをみたい。 |
| ■判別式と基本対称式 |
| 代数方程式の解法を説明する前に、判別式について説明しておく。 |
| n個の不定元X1,X2,……,Xnに対し、 |
Δ= Π(Xi−Xj)=(X1−X2)(X1−X3)・……・(X1−Xn)
i<j ×(X2−X3)・……・(X2−Xn)
……
×(Xn−1−Xn) |
| をX1,X2,……,Xnの差積(difference
product)と呼ぶ。注2 |
方程式f(X)=anXn+an−1Xn−1+……+a1X+a0=0
(an≠0)
の根をα1,α2,……,αnとする時、 |
Δ= Π(αi−αj)が定まるが、
その2乗Δ2= Π(αi−αj)2
i<j i<j
をf(X)=0の判別式(discriminant)と呼び、DやD(f)で表す。 |
| 注2 |
| Πは積を表す記号である。この場合、添字がi<jなるXi−Xjの全ての積を作ることを意味する。 |
| 次に、根と係数の関係について述べる。 |
| f(X)=an(X−α1)(X−α2)……(X−αn)であるから、 |
f(X)=an{Xn−(α1+α2+……+αn)Xn−1
+(α1α2+α2α3+……+αn−1αn)Xn−2
−(α1α2α3+α1α2α4+……+αn−2αn−1αn)Xn−3
+……+(−1)nα1α2……αn}
と展開できる。 |
簡単の為に、p1=α1+α2+……+αn
p2=α1α2+α2α3+……+αn−1αn
p3=α1α2α3+α1α2α4+……+αn−2αn−1αn
……
pn=α1α2……αn
とおく。 |
| f(X)=anXn+an−1Xn−1+……+a1X+a0と係数を比べれば、 |
−anp1=an−1
anp2=an−2
……
(−1)nanpn=a0 |
∴ p1= −(an−1/an)
p2= an−2/an
……
pn= (−1)n(a0/an)
これらを根と係数の関係という。 |
| 次に、X1,X2,……,Xnを不定元とし、対称式や交代式について説明する。 |
| S={1,2,……,n}を1からnまでの自然数の集合とし、SからSへの1対1写像を考えよう。 |
| つまり、
写像σ:S→Sで、i≠jならばσ(i)≠σ(j)で、
{σ(1),σ(2),……,σ(n)}は順序を無視してSと一致する
ようなものである。 |
σは{1,2,……,n}の並べ替えを与えるから、特にS上の置換(permutation)
と呼ばれ、置換の全体の集合をSnで表す。Snの元は明らかにn!個ある。注3 |
| 注3 |
n!はnの階乗と呼ばれ、n・(n−1)・……・2・1を意味する。
また、Snはn次対称群(symmetric
group)と呼ばれる重要な群である。 |
| 1→σ(1) 2→σ(2) …… n→σ(n)という置換σは |
のように簡略化して表記される。
|
σ(i)=j σ(j)=i(i≠j)
σ(k)=k(k≠i、k≠j)
というiとjを入れ換える置換σは互換(transposition)と呼ばれる。 |
のように互換はなるが、これを簡単に(i j)で表す。 |
g(X1,X2,……,Xn)をX1,X2,……,Xnの多項式とする時、
X1,X2,……,XnをS上の置換σで入れ換えた多項式を
σg(X1,X2,……,Xn)で表す。 |
| 即ち、σg(X1,X2,……,Xn)=g(Xσ(1),Xσ(2),……,Xσ(n)) |
任意の置換σに対し、
σg(X1,X2,……,Xn)= g(X1,X2,……,Xn)となる時、
g(X1,X2,……,Xn)は対称多項式(または単に、対称式)と呼ばれる。 |
| 例えば、p1,p2,……,pnは対称式であり、これらは基本対称式と呼ばれる。 |
任意の互換τに対し、
τg(X1,X2,……,Xn)=−g(X1,X2,……,Xn)となる時、
g(X1,X2,……,Xn)は交代多項式(または単に、交代式)と呼ばれる。 |
例えば、Δ= Π(Xi−Xj)は交代式である。
i<j |
交代式と対称式について以下の命題が明らかに成立する:
f1(X1,X2,……,Xn)、f2(X1,X2,……,Xn)を任意の交代式、
g1(X1,X2,……,Xn)、g2(X1,X2,……,Xn)を任意の対称式
とする時、
(1)f1(X1,X2,……,Xn)±f2(X1,X2,……,Xn)は交代式
(2)g1(X1,X2,……,Xn)±g2(X1,X2,……,Xn)は対称式
(3)f1(X1,X2,……,Xn)・f2(X1,X2,……,Xn)、
g1(X1,X2,……,Xn)・g2(X1,X2,……,Xn)は対称式
(4)f1(X1,X2,……,Xn)・g1(X1,X2,……,Xn)は交代式 |
|
| Δは交代式であるから、上記の命題より、Δ2=Dは対称式であることが分かる。 |
| また、自明ではないが、任意の対称式は基本対称式(の多項式)で表されることが知られている。注4 |
であるから、判別式は根の基本対称式で表される。
また、基本対称式は根と係数の関係より
an−1/an,an−2/an,……,a0/anで表される。
ゆえに、判別式Dはan−1/an,an−2/an,……,a0/anの多項式で表すことができる。 |
| 注4 |
| 例えば、
X12+X22=(X1+X2)2−2X1X2
X12+X22+X12X2+X1X22
=(X1+X2)2−2X1X2+X1X2(X1+X2)
=(X1+X2)2+X1X2(X1+X2−2) |