■敬虔なる宗教者と文筆 |
1928年1月7日、アメリカ・ニューヨーク生まれ。男性。レバノン出身のカトリック教徒の
家庭に育ち、カトリック初等中学・ブルックリン予備学校などイエズス会の神学校を出て、
ジョージタウン大学を卒業する。更に、ジョージワシントン大学で英文学を学び、文学修士
号を受ける。卒業後、情報文化センターへ就職し、一時期、レバノンのベイルートへ駐在す
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るが、帰国して空軍の心理作戦班に勤務する。この時期サタデイ・イヴニング・ポスト誌な
どで記事を書き始めた。退官後南カルフォルニア大学で宣伝担当理事として働いていたが、
小説『WHICH WAY TO MECCA,JACK?』(1959)でデビューを果たす。小説『JOHN GOLDFARB,
PLEASE COME HOME』(1965)も映画化されたが(日本未公開)、1960年半ばからはテレビ
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の喜劇脚本、『ティファニーで朝食を』(1961)や<ピンク・パンサー・シリーズ>で有名な
ブレイク・エドワーズ監督と組んで、『A SHOT IN THE DARK / 暗闇でドッキリ』(1964)、
『WHAT DID YOU DO IN THE WAR,DADDY? / 地上最大の脱出作戦』(1966)、『GUNN/銃口』
(1967)、『DARLING LILI / 暁の出撃』(1970)他の喜劇&戦争映画の脚本に従事している。
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■伝説は始まる──モダンホラー小説の記念碑 |
小説『エクソシスト』(1971)の構想は20年来のものであった。1949年、ブラッティがジョー
ジタウン大学の学生であった頃、地方新聞の記事(米メリーランド州マウント・レーニアに
住む14歳の少年を襲った悪魔祓い騒動)を読んだ当時に思い付いたものだった。1969年、脚
本の仕事が少なかったブラッティは聖書などから情報収集し、本書をいよいよ書き始める。
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1971年、本書が発表されると、アメリカだけで1300万部を売り上げる世界的ベストセラーを
記録する。天才小説&劇作家アイラ・レヴィンの第2作目『ローズマリーの赤ちゃん』とい
う、悪魔崇拝を扱った傑作が本書執筆以前の1967年に発表され、1968年にロマン・ポランス
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キー監督が映画化、話題となったのも本書執筆の動機の一つであろう。これらレヴィンとブ
ラッティという異才が相次いで放った記念碑的小説たちは小説市場の方向性を決定付けた。
後年、スティーヴン・キングやディーン・R・クーンツらといったエンターテイメントホラ
ーの旗手を生み、現在も隆盛を誇るモダンホラーというジャンルの契機となったのである。
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■伝説は高まる──オカルト映画ブームの試金石 |
『エクソシスト』は1973年12月映画化され、全世界で大当たりをする。1971年に『フレンチ
・コネクション』により、アカデミー賞を受賞した新鋭ウィリアム・フリードキン監督が演
出し、製作・脚色は原作者自らが手掛けた。悪魔に取り憑かれた11歳の少女リーガンを熱演
した女優リンダ・ブレアの狂態に、キリスト教圏では失神者や嘔吐者が観客に頻発したとい
うが、フランシス・F・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(1972)の興行成績を各地で追
い越し、翌年度の米興行成績第2位を記録(日本では『燃えよドラゴン』を抑え、洋画部門
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興行成績第1位!)。宗教者の苦悩、善と悪の対決などをリアリスティックな映像美で描い
たこの映画は、フリードキン監督や撮影監督オーウェン・ロイズマン(冒頭部イラクロケ撮
影はビリー・ウィリアムズ)らの手腕、俳優陣の名演など、無駄な部分が一切ない。原作共
に後世に語り継がれるべき大傑作であろう。同時に、映画のテーマ音楽に採用されたマイク
・オールドフィールドのデビュー作『チュブラー・ベルズ』の収録曲は「エクシストのテー
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マ」としてエディット・シングル版が発表され、大ヒットしている。『エクソシスト』はそ
のどれをとっても一級品の怪物であった。だが、10部門のアカデミー賞候補になりながら、
音響賞と脚色賞のみの栄冠に終わっているのは信じられない。しかし、前出のポランスキー
監督による『ローズマリー〜』と本作はここでも、オカルト映画というジャンルの黄金の試
金石であった。リチャード・ドナー監督の『オーメン』(1976)、ダリオ・アルジェント監督
の『サスペリア』(1977)など、後代の名作の手本となったことは容易に想像できるだろう。
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■伝説以後──続編 |
空前のオカルトブームの中、『エクソシスト』の続編『EXORCIST
II : THE HERETIC /エク
ソシスト2』(1977)が製作・公開されるも(ジョン・ブアマン監督)興行的には失敗した。
ブラッティは自作『TWINKLE,TWINKLE,KILLER KANE』(1979)を元にして映画『THE NINTH
CONFIGURATION / トゥインクル・トゥインクル・キラーカーン』(1980)を製作する(ビデ
オ公開)。監督・製作・原作・脚本から、役者として出演に至るまで活躍したようである。
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次に、ブラッティは映画『エクソシスト2』に不満を持ったようで、『エクソシスト』の正
統な続編『LEGION』(1983)を執筆し、発表する(未訳)。1990年、彼自ら監督・製作・脚
本を手掛けた映画『THE EXORCIST
III /エクソシスト3』が公開された。これは原作をブ
ラッティが書いただけあってか、よくできている。現代的サイコ・サスペンス構造が導入さ
れた脚本は秀逸で、神学的主張と恐怖を滲ませようとする意図との融合がはかられている。
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■伝説は四半世紀を越えて |
第1作の公開から25周年にあたる1998年末は、国際ファンタスティック映画祭でデジタル・
リミックス25周年記念版と、短縮版ながらメイキングも試写された(本国や日本でもメイキ
ング完全版を併録したDVD版が発売されたようだ)。更に、『エクソシスト』の外伝とも
いえる映画『EXORCIST : DOMINION』が製作中らしい。第1作に登場の老エクソシスト、メ
リン神父の若かりし頃から悪魔祓いに関わる生涯(アフリカにおいての悪魔パズズとの初対
峙など)をモチーフにしている。当初、『EXORCIST
IV : THE BEGINNING』の題名で製作は
開始されたらしいが(キャスト詳細不明)、記念すべき2000年公開予定がとても楽しみだ。
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