William Peter Blatty 作品書評 


『エクソシスト / THE EXORCIST』
(1971)
創元推理文庫582-01
 (訳:宇野利泰 / 1999. 7.30)

■あらすじ
  
イラク北部の古代遺跡。初老の悪魔祓い師(エクソシスト)、ランケスター・メリン神父は
古生物学者として発掘に携わっていた。だが、彼は悪霊パズズの偶像を発見し、対決を余儀
なくされる宿命を直感する。数ヶ月後、ワシントンのジョージタウン。女優クリス・マック
ニールはロケ撮影の為、11歳の愛娘リーガンや秘書・使用人と共に借家住まいをしていた。
屋根裏部屋から鼠の仕業と思われる異音がした。が、娘はウィージャ盤に興じ空想めいて、
 
部屋の異音騒動などを訴え落ち着きがなくなってゆく。ついにはパーティの席上、夢遊病者
の如くベットから起き出したリーガンは客を謗り、失禁する。そして、独りでに暴れるベッ
トで翻弄される娘の悲痛な姿を目にした。主治医を通じ、病院で精密検査や投薬を仰ぐが成
果は上がらず、訪問診断した精神科医をリーガンは異様な声音で罵倒するに及び、娘の容姿
 
は悪鬼へと急変する。周辺の教会で悪魔崇拝の侮蔑行為が頻発する一方、マックニール家に
立ち寄った映画監督デニングスが怪死を遂げる。ウィリアム・キンダーマン警部補は事件捜
査をするうち、その死と悪魔崇拝事件の奇妙な関連を見出す。藁にすがる思いでクリスは狂
態を呈する娘を救うべく、デイミアン・カラス神父に悪魔祓いの相談する。精神科医でもあ
るカラスには受け入れ難かったが、少女の様子を研究するにつれ信念は揺らいでゆく……。
 

■作品書評
  
W・P・ブラッティによるモダンホラーの指標的役割を果たした傑作。作品解説は本来は無
用で、本書は読み味わうだけがいい。本書は扱っているものが悪魔祓いであるから、西洋二
元論的対比が象徴として織り込まれている。プロローグのイラクと主要舞台のワシントンは
「古都と新都」「自然(砂漠の熱砂)と人工(寒風景)」。ひいては「過去と未来」という
時空間の象徴へと繋がっている。中間部では「宗教(エクソシズム)と科学(医学)」が主
  
題となり、「精神(悪霊)と肉体(少女)」「憎悪と愛」「生と死」という互いにせめぎ合
い、表裏一体をなす観念が転換を続けながら、最終章における「善(神父)と悪(悪霊)」
の対決へと集約されてゆく。その中で揺れ動く人間として、特に重要な役割を演じているの
がカラス神父であり、少女の母親クリスであろう。「神論と近代医学」の素養を持つカラス
神父は母親の死に責任を感じる告悔者としての面を持ち合わせ、信仰喪失状態にある。娘を
  
襲った事態に苦悩する母親クリスは女優業という産業社会の一員で無神論者である。だが、
彼らは最終的にはこの世の目に見えない事物の存在を知覚し、それに真っ向から挑むのだ。
作者は本書で何を語りたかったか? 主の創りたもうた世界は割り切れない不完全なもので
あるのかもしれない。人間は言わずもなが非力であろう。どんな手段を講じても切り捨ても
割り切れもできない。そんな世界の様相を見取った作者は、魂の救済を求めたのだろうか。
  
 
 (1999.12.18 / 12.20 改訂 高林廉) 
映画関連情報
  
●映画主要スタッフ
本書はウィリアム・フリードキン監督による映画(1973)というもう1つの傑作が存在する。
フリードキンはこれでアカデミー作品賞と監督賞の候補となる(ゴールデン・グローブ賞は
獲得した)。ストーリは原作者自らが脚本・製作に関与しているので、忠実だ(アカデミー
脚色賞受賞)。フリードキンのリアリズムを重視したドキュメンタリー・タッチの手法──
無機質な都会的な風景を登場人物への無駄な感情移入を排し描写している。それが得も言わ
   
れぬ迫真な映像を映画版に与えている。映画スタッフもいい。特に、撮影部隊は功労者だ。
『THE FRENCH CONNECTION / フレンチ・コネクション』(1971)でも撮影監督を務めたオー
ウェン・ロイズマンは同作同様アカデミー撮影賞候補に挙がった。『GANDHI / ガンジー』
(1982)でアカデミー撮影賞などを受賞するビリー・ウィリアムズの映像美も素晴らしい。
 
ロイズマンの「白く視覚化された吐息」や陰影の使い方などは絵画的さえある。ウィリアム
ズのロケ撮影したイラクの渇いた光景は物語の予感を募らせる。大袈裟な特殊撮影技術に頼
らず、工夫が凝らされたSFXも好感が持てるし、アカデミー音響賞を受賞した音響効果も
秀逸だ。他のアカデミー賞候補は主演女優賞・助演男優賞・助演女優賞・美術賞・編集賞。
フリードキンの趣向がオカルト映画の中で花開いた、その分野の最高傑作の1つであろう。
  
●映画主要キャスト
 
俳優
……
役名
エレン・バースタイン
……
クリス・マックニール
マックス・フォン・シドー
……
メリン神父
リー・J・コッブ
……
ウィリアム・F・キンダーマン警部補
キティ・ウィン
……
シャロン・スペンサー
ジャック・マッゴーラン
……
バーク・デニングス
ジェイソン・ミラー
……
カラス神父
リンダ・ブレア
……
リーガン・マックニール
 
本作でアカデミー主演女優賞候補となったクリス役のE・バースタインは、同作品賞&監督
賞両候補(ピーター・ボグダノビッチ)の『THE LAST PICTURE SHOW / ラスト・ショー』
 (1971)で、同助演女優賞受賞のクロリス・リーチマンと共に同候補になった人物である。
『ALICE DOESN'T LIVE HERE ANYMORE / アリスの恋』(1974)のアリス役で同主演女優賞
を受賞する。同主演女優賞候補作品である『SAME TIME, NEXT YEAR / セイム・タイム、ネ
クスト・イヤー』(1978)や『RESURRECTION / レザレクション 復活』(1980)に出演した。
  
メリン神父役のM・V・シドーはスウェーデン出身の演技派。本作製作時は40歳ほどで老け
役への挑戦であった。『THE GREATEST STORY EVER TOLD / 偉大な生涯の物語』(1965)、
『HAWAII / ハワイ』(1966)などを経て、本作(ゴールデン・グローブ助演男優賞候補)と
『エクソシスト2』(1977)へ出演する。他に、『FLASH GORDON / フラッシュ・ゴードン』
(1980)、アカデミー作品賞&監督賞両候補(ウッディ・アレン)の『ハンナとその姉妹』
(1986)に出演。同外国語映画賞受賞のカンヌ映画祭グランプリ作『PELLE EROBREREN / ペ
レ』(1987)で同主演男優賞の候補にもなった。近年は同特殊効果賞受賞などになったリチ
ャード・マシスン原作『WHAT DREAMS MAY COME / 奇蹟の輝き』(1998)へ出演している。
  
キンダーマン警部補役のL・J・コッブエリア・カザン監督のアカデミー作品賞&監督賞
受賞作『ON THE WATERFRONT / 波止場』(1954)や『THE BROTHERS KARAMAZOV / カラマー
ゾフの兄弟』(1958)で、同助演男優賞候補になった名優である。1976年、64歳で逝去した。
  
カラス神父役のJ・ミラーは映画デビュー作である本作に抜擢され、アカデミー助演男優賞
の候補となった。以後、テレビ俳優として多く活動しているが、『トゥインクル・トゥイン
クル・キラーカーン』(1980)や『エクソシスト3』(1990)など関連作品へは出演している。
俳優としてだけでなく、劇作家の側面も持っている。オフ・ブロードウェイ時代に書いた戯
曲『 THAT CHAMPIONSHIP SEASON / 闘士の季節』はブロードウェイで上演され、ニューヨ
ーク劇評家賞、トニー賞、ピュリッツアー賞の3賞に輝き、1982年に映画化もされている。
  
当時14歳だったリンダ・ブレアは本作のリーガン役にスカウトされ、一躍有名になった。同
役で、アカデミー助演女優賞候補(及びゴールデン・グローブ新人女優賞候補)になるも、
取り憑かれた少女の声色がマーセデス・マッケンブリッジの吹き替えと知れて、受賞を逃し
たらしい。『エクソシスト2』(1977)へも出演。彼女はもう40歳になったとは早いものだ。
 
●映画こぼれ話
『エクソシスト』制作中に関係者が幾人か変死を遂げたと囁かれ、映画の前宣伝にも流用さ
れたという。変死の事実に信憑性があるかどうかは定かではないが、オカルト映画製作には
そういう因縁があるのかもしれない(くわばらである)。また、イギリスで公開された時、
検閲によって、取り憑かれた少女が十字架で自慰行為をするシーンはカットされたようだ。
 
 (1999.12.19 / 2000.1.3 補追 / 10.1 訂正 高林廉)

 
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