夢枕 獏 作品書評1 


『上弦の月を喰べる獅子』
(1989)
早川書房(四六判) / ハヤカワ文庫JA502・JA503(上・下)
(1989. 8.31 / 1995. 4.15)

■あらすじ
  
カメラマン・三島草平は螺旋蒐集家として、あらゆる事物や現象へ螺旋を蒐集していた。彼
は訪れた新宿の超高層ビルで、現実にはあり得ない螺旋階段を幻視する。一方、詩人・宮沢
 
賢治は若き日、北上高地の谷の斜面で、彼のみに幻視せる巨大オウム貝の化石を発見した。
肺病を患う賢治は再び、そこへと赴くのだった。幻視した螺旋へと身を委ねるように、孤独
と修羅を歩む2人の魂は時空を越え、アシュヴィンという異世界の存在へと昇華される。美
 
しい少女シェラと出会ったアシュヴィンは、誰もまだ見ない蘇迷楼(スメール)の山頂を目
指す。螺旋に彩られた進化と宇宙、自身の存在を問うアシュヴィンの遍歴が始まるが……。
 

■作品書評
第10回日本SF大賞受賞 
第21回星雲賞日本長編部門受賞 
  
デビュー以来、夢枕獏の著作の根底には、本書に見られるものと同質の仏教宗教や宇宙観が
潜んでいた。主人公シッダルタが巨大樹を登る1981年発表の処女長編『幻獣変化』にもその
息吹が見られる。エロスとヴァイオレンスの伝奇SF小説分野を中心に、売れっ子作家となっ
たイメージをどう払拭してゆくか、その解答が本書にはある。「これは、天についての物語
  
である」と、作者はあとがきで述べている。人間が抱える様々な嫉妬や愛情などの悩みや葛
藤、自身の存在意義への根元的な疑問。この哲学的命題を独特の仏教観を背景に、宇宙論や
生物進化論を絡め解明しようとする、夢枕獏が渾身の筆致と構成でものにした一大傑作だ。
本書はDNAの二重螺旋構造(あとがきに詳しい)が巧妙に取り込まれたもので、その中を
  
主人公たちは呼応照応しながら、進んでゆく。従来のSFの枠のみでは捉えられない夢枕獏だ
からこそ書けたものだ。仏教を枠に、真理を探究する人間存在をモチーフとして織り込んだ
60年代SFの傑作に、光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』がある。作者はその偉大なる先行作を
独特のヴィジョンで乗り越えてしまった。童話『銀河鉄道の夜』や詩集『春と修羅』を生ん
 
 だ天才詩人・宮沢賢治への嗜好が、書き手の裡で醸成され、希有な幻想SFの書き手を生んだ
のであろう。夢枕獏は決してエロスとヴァイオレンスのみではない──それは作者の一面で
しかないことが本書を読めばよく分かる。敬愛する作家のひとりであり、デビュー作から愛
読している僕は断言する。この物語は絶対に面白い。そして、切なく哀しい救済の物語だ。
 
 (2000.1.30 高林廉)

 
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