デビュー以来、夢枕獏の著作の根底には、本書に見られるものと同質の仏教宗教や宇宙観が
潜んでいた。主人公シッダルタが巨大樹を登る1981年発表の処女長編『幻獣変化』にもその
息吹が見られる。エロスとヴァイオレンスの伝奇SF小説分野を中心に、売れっ子作家となっ
たイメージをどう払拭してゆくか、その解答が本書にはある。「これは、天についての物語
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である」と、作者はあとがきで述べている。人間が抱える様々な嫉妬や愛情などの悩みや葛
藤、自身の存在意義への根元的な疑問。この哲学的命題を独特の仏教観を背景に、宇宙論や
生物進化論を絡め解明しようとする、夢枕獏が渾身の筆致と構成でものにした一大傑作だ。
本書はDNAの二重螺旋構造(あとがきに詳しい)が巧妙に取り込まれたもので、その中を
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主人公たちは呼応照応しながら、進んでゆく。従来のSFの枠のみでは捉えられない夢枕獏だ
からこそ書けたものだ。仏教を枠に、真理を探究する人間存在をモチーフとして織り込んだ
60年代SFの傑作に、光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』がある。作者はその偉大なる先行作を
独特のヴィジョンで乗り越えてしまった。童話『銀河鉄道の夜』や詩集『春と修羅』を生ん
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