「大丈夫です、手はあります」。漫画研究会の会長も文学部の部長も前の日にいっていた言葉だ。
いま私はダンボールの中にいる。
・・・・理由は、ある張り紙の内容にある。「蓬莱を見たら敵だと思へ」「蓬莱を入れない・出さない・売らせない」「Horai
The Bomber」。
似顔絵と共に標語が踊り、監視体制は過去最高。
後で聞いたところでは消防担当官も頭を抱え、
「今日こそは、今日こそは即刻停止だ。本も買えないで仕事なんてこりごりだ。くそう」
とつぶやきをもらしたとかそうでないとか。
コミケの笑えないジョークでこんな話があった。
消防担当官が開場前に念を押す。
「今日何かなにかあったら、もう見逃すということはできません。即刻停止命令を出します」
スタッフが懇願する「お願いだ。同人の火を消さないでくれ」
「ん?火は消さなきゃならんだろう」
・・・さて。
ダンボールはそれぞれサークルブースに運ばれていく。
宅配便の人間が重そうに運ぶ声が聞こえる。
「おいおい。本だからってこんなにおもいんじゃなあ」
「あ、それ天地逆」
隣のダンボールも部員が潜入しているはずだ。
ひっくり返っているのだろう、御愁傷様。幸運を祈るしかない。
そうこうして、なんとか会場入り。騒然とした、そして熱気あふれる販売ブース。
ガレリアに出ると太陽の光が目に刺さる。
できればこんな入場をしなくて済むようにしたかった。
しかしそれはもう不可能だ。
この日はゆっくりとサークル巡りをすることができた。
悲喜こもごも、欲望と羨望、群集心理が渦巻くなか、特に記すことなくこの日を過ごすことができた。
錬金術研究会が会場内の参加者の欲望を利用して淫魔を召還しようとしていたとの噂も聞こえたが、もはやそれに気を向けるほどの気力も残ってなかった。
これでは記者失格であるが、閉会まで生き残るほうが先決であった。
16日についてはただ最後の饗宴が船上で繰り広げられていたことのみ記す。
復員船に乗って郷里に向かうがごとく、波間を見つめしばし佇んだ。
最後に大嘘をつこう。
「神は天にいまし、世はなべてこともなし」
(8月18日)
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