HOME>>>日本語エリア>>>『中国史のなかの日本像』目録
| 終 章 幻想の破滅 |
一九〇〇年、新旧世紀の交代にあたり、日本が義和団の鎮圧を名目にして「八か国連合軍」に加わり中国へ派兵した事件をきっかけに、これまで「西学の師」と仰がれた日本像は、またも大きく塗りかえられた。
中国人にとって、日本への幻想は二重の意味において、破滅の一途をたどった。ひとつは遙か東海にはせるユートピア幻想の破滅であり、もうひとつは西洋列強の侵略に対抗するための中日提携の幻想の破滅である。こうした幻想破滅によって増幅される日本への憎悪感と敵愾心は、辛亥革命をへて抗日戦争にその頂点に達した。
これまでにも中日両国は、白村江の海戦とか倭寇の跳梁とか豊臣秀吉の朝鮮侵略とか甲午戦争(日清戦争)とかで、幾度か戦火を交えたことがあったが、それらは領土分割の目的をあらわにむき出した義和団鎮圧(北清事変)と抗日戦争(日中戦争)とは、性質がまったく異なるものである。日本はなんの仮面もかぶらずに、ただ敵国としてだけ中国人の前に現われてきたからである。
抗日戦争中に、日本軍の残虐な「三光政策」つまり占領地の住民を殺しつくし、財物を奪いつくし、建物を焼きつくすという地獄図のような恐怖をじっさいに経験した世代がまだ生きのこっており、また一方では旧日本軍の「血筋」をうけつぎ、かの侵略戦争を極力に美化しようとする人々も今日の日本に少なからずいるため、「幻想の破滅」は今なお尾をひいているようである。
アメリカの中国研究の碩学であるアレン・S・ホワイティング教授はその名著『中国人の日本観』において、百日維新以来の中国の改良派や革命家らが日本に寄せた信頼と期待が裏切られたことの現代的意味を次のように指摘している。
康有為、張之洞、梁啓超、孫文は文化的共通性と地理的近接性の理論が中国の利益 を伸長する上で日本の協力を容易にすると考えていた。不幸なことに、帝国主義とパ ワー・ポリティックスの論理が(中略)日本の文民、軍人双方のリーダーに中国を犠 牲にする拡張主義を促進させた。この論理が、中華人民共和国において、日本の軍国 主義復活の恐れが表明されるときにはどこでも中国人の恨みと疑惑の核をなしている のである。(1)
二十一世紀を目前にして、和解と共存とに象徴される人類共通の美しい「幻想」を少しでも中日の間で「現実」に変えようというのが、筆者の悲願であり、本書執筆の動機でもある。したがって、本章を過去の不幸な歴史の「終章」として、日本の読者に読んでいただければ、筆者は悔いなく本書にピリオドを打つ。