■アルバムレビュー&寸評 |
クリムゾンのお薦めアルバムはデビュー作『クリムゾン・キングの宮殿』がまず1枚。こ
れは絶対に外せない。ビートルズの『アビイ・ロード』を蹴落として全英1位になったの
だから、それだけでもその凄さは何となくは分かるだろう。聴けばもっと分かると思う。
1曲目「21世紀の精神異常者」はたまげるでしょう。ジャズ畑出身のマイケル・ジャイル
ズの正確無比なドラミングに、フリップ卿が掻き鳴らすギターは暴風のように絡み合い、
血をたぎらせる。これが動の代表曲だとすれば、叙情豊かに歌い上げるグレック・レイク
のボーカルが聴ける「風に語りて」や「エピタフ」は静。八面六臂の活躍をし、静と動の
バランサーになっているのがイアン・マクドナルドで、タイトル曲に見事にその形式美を
見ることができる。このアルバム抜きにブリティッシュロックは語れないと断言したい。
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セカンド『ポセイドンのめざめ』は上記の姉妹編的趣きがあるのだが、そのファーストに
して極みに到達してしまったバンドの宿命ともいえ、それほどの完成度は望めないが、ま
ずまずのでき。イアン・マクドナルド(後にフォリナーを結成)が抜けてしまったのは痛
い。タイトル曲は昔、全日空のCMに使われた名曲なのだが、あの時は笑ってしまった。
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サード『リザード』は僕個人は必然性が余り感じられない作品。何が面白くないかってい
うと、リードボーカルがいけない(苦笑)。魅力に乏しい声。ゲストボーカルにイエスの
ジョン・アンダーソンが参加し絶妙なハイボイスを奏でているから、余計にそう思える。
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4枚目『アイランズ』はソフトで、まとまりに欠けた印象がある。準メンバーの作詩家ピ
ート・シンフィールドが関わった最後のアルバムだが、リリカルさと即興性が相まって静
と動の対比をしてきた前期クリムゾン(第1〜4期)の音楽的模索と限界が感じられる。
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いよいよ後期クリムゾン(第5期の通称)のアルバム。オリジナルは3枚あるが、そのう
ち6枚目と7枚目を薦めたい。5枚目『太陽と戦慄』はどこか東洋的な匂いがして、これ
も素晴らしい。イエスから来たビル・ブラッフォード(ドラム)、元ファミリーのジョン
・ウェットン(ベース&ボーカル)のリズム隊を核に、前衛パーカッショニストのジェイ
ミー・ミュアーが音を変幻させ、クリムゾンの緊張感漂う男性的エネルギーが爆発する。
後期クリムゾンでの作詩はウェットンの旧友リチャード・パーマー・ジェームスが担当。
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6枚目『スターレス・アンド・バイブルブラック』のタイトルは英国の詩人デュラン・ト
ーマスの詩から引用されたもので、攻撃性の中に叙情性が視られる後期クリムゾンを象徴
している。後半2曲の凄まじいまでの荒々しさと緊張感に、ライブバンドとしての後期ク
リムゾンの真価が現れている。ミュアーは脱退してしまった(修道院に入ったらしい)の
で、前作特有の面白さは損なわれたが、音の洪水に身を委ねたい時には絶好のアルバム。
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7枚目『レッド』が発売される少し前の1974年9月28日、フリップは「クリムゾンは死
んだ」という印象的な解散表明をした。7月のアメリカツアーを最後にクロスが健康悪化
で脱退、3人となったクリムゾンのメンバーが初めてジャケット表紙(左からジョン、ビ
ル、ロバート)を飾り、まるで葬送的雰囲気さえあるデザイン。確信犯である。音は全体
的に荘厳さを帯び、メタリックである。黒と赤。暗黒と血であろうか。前年のアメリカツ
アーの演奏を収録した『USA』(国内版未発売)が翌年出るが、そのジャケットは高々
と金の延べ棒を差し上げたデザインであることからも、錬金術の意味合いが『レッド』に
は含まれていると見てよい。終尾「スターレス」は僕が最も好きな曲の一つであり、ジョ
ンのメランコリックなボーカルが聴け、メロトロンの音色の奏でる音色も魂をくすぐる。
僕にとってクリムゾン(の音)は1974年で死んでいる。それ以降は蛇足になってしまう。
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1981年再結成したクリムゾンは以前とまったく別物といっていい。8枚目〜10枚目は三部
作で、『ディシプリン』『ビート』『スリー・オブ・ア・パーフェクト・ペアー』はジャ
ケットがそれぞれ赤・青・黄という三原色を使われている。フリップ卿とエイドリアン・
ブリューのツイン・ギター(前者は精密機械のようなカッティング、後者は表現多彩な音
色)を軸に、トニー・レヴィンの操るスティックベースとブラッフォードのドラミングに
よってエレクトリックなグルーヴ感の表現に成功している。ただブリューのボーカルは、
トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンのスタイルと酷似していて、今一つ面白味に欠
ける。この時期のクリムゾンで薦めるアルバムを選べば、『ディシプリン』であろうか。
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1984年の休止から1994年に再結成されたクリムゾンはツイン・ギター、ツイン・スティッ
ク、ツイン・ドラムスという構成。ミニアルバム『ヴルーム』は『スラック』のプロロー
グ的主旨があったようで、ヘヴィーメタリックなクリムゾンが聴ける。ただ僕個人として
はどうしてもバンドの必然性が感じられない。後期クリムゾンの恍惚とした感覚は甦らな
い。クリムゾンの復活は喜ばしいが、ジョン・ウェットンのボーカルでクリムゾンを再結
成してくれないだろうかと切に願っている。僕だけじゃないだろうと思うのだが(笑)。
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(1999.2.28 高林廉)
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