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すごい詰将棋の作り方

盤上のファンタジア  若島正 河出書房新社 2001年

 第六十六番 

質の高い詰将棋を創作する作家はプロ棋士よりもアマチュアに多いのですが、残念なことにアマチュアの詰将棋作家の作品集が商業出版されることはめったにありません。この本はそんな数少ない中の一つで、若島正の「最後の作品集であり、決定版のつもり」(まえがきより)という作品集です。

一手詰から始まり百局の詰将棋が手数順に並べられています。前半の短編作品は華麗な詰将棋と重複する部分も多いのですが、後半に入ると「根っからの中篇作家」(128頁)という作者の真骨頂が味わえます。

右図はそんな中では地味な作品ですが、ここで作者はこのような作品の作り方をさらっと述べています。

作者はまず11手目▲3二角 からの15手詰を素材として持っていたそうです。これだけなら特にどうということもない詰将棋ですが、そこから逆算することによりこの作品ができあがったのです。逆算すると普通は駒数が増えてしまいますが、この作者は合駒の手順を逆算に加えることで駒数を変えずにあるいは減らしながら逆算し、結果として簡素で取っつきやすい図を創り出しています。

この作品でいえば、3二に打つ角をあらかじめ持駒として持たせるのではなく、角合が生じる手順を序に組み込むことで感触をよりよいものにしています。「角合を出そう」と思ってすぐに(かどうかはわかりませんが)実現できる手腕は、七種合を中篇で実現してしまったことでも知られているように、若島正ならではのものと言えるでしょう。


 第五十二番 

そのやり方を極端なまでに押し進めて創られたのが右の作品です。作者は「あまり信じてもらえない話だが、これも逆算による創作である。」と記しています。ええ、信じられませんとも。だれでも、初めからこの初手を実現しようとして作ったと思うでしょう。そして、この初手が実現したのにこのすっきりした形とは恐れ入りました、収束もきっちり決まっているし、というのが普通の感想だと思います。

作者は11手目▲3五馬 からの11手詰を素材として持っていたそうです。これは限定合が二度出てきて、そのままでもそれなりの詰将棋になっています。11手目の局面で持駒にある銀を合駒として発生させるだけでなく、そのために打つ香をこんな風に実現させようと思うだけでも、私などはすごいと思ってしまいますが、この作者はそれを盤上に実現させることができてしまうのです。全く驚異的というほかありません。

他にも、驚異的すぎる作品たちを紹介したいのですが、それは実際に本を買って体験していただきたいと思います。今なら大きい書店でなくてもこの本が置いてあるはずです。また、河出書房新社のページでも購入することができます。詰将棋ファンならずとも読んでほしい、いちおしの一冊です。


右の2作品の解答を動く盤面で用意しました。

















上図の解答は、
▲3三銀成 △2一玉 ▲2三龍 △1一玉 ▲1三龍 △1二角 ▲同 龍 △同 玉 ▲1三歩 △2一玉 ▲3二角 △1一玉 ▲1二歩成 △同 玉 ▲1三馬 △1一玉 ▲2一角成 △同 金 ▲1二歩 △同 金 ▲同 馬 △同 玉 ▲2三金 △1一玉 ▲2二金 まで25手詰。

下図の解答は、
▲3九香(▲3八香 では失敗します。) △3五銀 ▲同 香 △2三玉 ▲3三香成 △1四玉 ▲2四銀成 △同 玉 ▲1三角成 △同 玉 ▲3五馬 △2四飛 ▲1五香 △1四桂 ▲2二銀 △1二玉 ▲1四香 △同 飛 ▲1三馬 △同 飛 ▲2四桂 まで21手詰。
(詳しい変化を知りたい方は書店で購入して確かめて下さい。)


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written by mozu

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