人格の触媒効果
ヘタレ成長の一手法
『ゴルゴ13』の「422話・ストレンジャー」はよい。コンビニで立ち読みしながら転がりそうになった。以下、あらすじである。
ボビーは孤独なマザコンであった。母親を亡くし絶望に駆られたかれは、自殺を試みる。
死に場所に選んだ山林で、ボビーは追われるゴルゴに出会い、『サバイバル』なゴルゴの頑強さに惹かれてゆく。で、いろいろあってゴルゴをストークしているうちに、山火事に巻き込まれる。ボビーのヘタレる表情が素敵だ。
ゴルゴはそんなボビーに、山火事から逃れる術を伝える。
山火事が去り、生き残ったボビーの頭には、もう自殺のことなどなかった。かれはゴルゴの立ち去った後を、いつまでも見つめるのであった(おわり)。
さて、一般に流布されている冷徹なマシーンとしてのゴルゴは、きわめて誤解されたイメージであると言わねばならないだろう。冷徹そうに見えて実は義理人情の固まりというのが、ゴルゴの人格造形に関する本質であり、この話数はその格好の事例であると見ることが出来る。ただ、そのことは今回の主題ではない。
われわれが注目したいのは、ゴルゴの行動がヘタレ男・ボビーの成長を誘起・達成させたことにある。ヘタレが身体の危機に襲われたとき、強烈にヘタレあらざる人格と出会い、それに感化される様式を、人格の触媒効果と呼ぶことにしよう。他に有名な事例としては、『ポセイドン・アドベンチャー』の「ハックマン→ボーグナイン」な泣ける関係を挙げたい。なお、ヘタレではない人格が危機的状況で互いに惹かれあうとジョン・ウーになる。『男たちの挽歌・最終章』における「ユンファ→←ダニー・リー」の危ない関係を想起せよ。
もっとも、感化がアッパーな人格動態を促すとは限らない。逆に人格の失墜になってしまうこともある。『今すぐ抱きしめたい』の「アンディ・ラウ→ジャッキー・チュン」が、まず思い浮かぶのだが、これは感化の失敗ともとれる事例である。むしろ、夏目漱石などがこのダウナーな感化型として解釈出来そうな感じもする。