IPルーティング


■ 経路制御。ルーティング。Routing。

  パケットが正しい相手先に届くように、経路選択を行うこと。

  具体的には、パケットに記録された宛先アドレスを調査し、
  そのホストに到達するための経路にあたるネットワークがどれかを判断し、
  そこへパケットを転送すること。

  ルーティングを行う機器はルータと呼ばれる。
  またルーティングの処理を行なうにあたって必要な情報を保持するメモリを
  経路表という。

■ 経路表。ルーティングテーブル。Routing Table。

  ルータやホストが管理しているパケットの配送先に関する経路情報。

  具体的には、パケットの宛先となるネットワークと、
  そのネットワークにパケットを届けるために経由すべき
  ルータのIPアドレス等の対応等を、継続的に保持している。

  経路表の生成、管理方式には、
  管理者が1つ1つのルートを手動で設定しておく静的ルーティングや、
  ルータ同士が連携して自動的に設定を行う動的ルーティングがある。

■ 静的ルーティング。Static Routing。

  管理者が経路表のエントリを1つ1つ手動で登録しておき、
  これに基づいてルーティングを行う方式。

  ルータのCPUにかかる負荷が少なく、ルータ間の帯域幅も消耗しないが、
  ネットワークトポロジの変更がある度に、
  管理者が手作業で経路表を書き換える必要がある。

  小規模ネットワークに向く。

■ 動的ルーティング。Dynamic Routing。

  ルータ同士が経路情報を自動的にやり取りし、
  回線の不調等を判別して、ルーティングテーブルを適宜書き換える方式。
  経路情報の交換には、ルーティングプロトコルを使用する。

  ダイナミックルーティングの使用により、
  ルータのCPU負荷や帯域の消耗は大幅に増えるものの、
  管理者の作業は楽になる。

  大規模なネットワークで使われる。

■ デフォルトルーティング。Default Routing。

  デフォルトルートを使用するルーティングのこと。

  デフォルトルートとは、
  宛先へのルートが不明な場合に使用するルートとして
  あらかじめ指定しておくものである。
  ルータは必要な経路情報が見つからないとき、
  ここにパケットを転送する。

  デフォルトルーティングは、
  出口ポートを1つしか持たないネットワーク(スタブネットワーク)で使用する。
  例えば、ISPに直接接続するルータなどが該当する。

■ ルータ。Router。

  IPパケットを認識し、適切に転送する中継デバイス。
  OSI参照モデルのネットワーク層に相当する。

  ルータは、ルーティングプロトコルによって取得した情報を元に
  経路表を作成、保持する。そしてパケットを受信すると、
  その宛先アドレスと経路表を照合して最適経路を選択し、
  その経路に対応するポートからパケットを送出する。

  また複数のLANを接続することも、ルータの重要な役割である。
  ルータは様々なインターフェースを採ることができ、
  異なるインターフェースでもパケットを転送することができる。
  (例) イーサネットATMSONET など

  さらにルータはふつうフィルタリング機能を持ち、
  ファイアウォールのようにパケットのIPアドレスやポート番号によって、
  通過の可否を制御することができる。

■ レイヤ3スイッチ。

  IPパケットを認識し、適切に転送する中継デバイス。
  OSI参照モデルのネットワーク層に相当する。

  レイヤ3スイッチは、
  ルータの基本機能をハードウェアベースに置き換えることで
  転送処理の高速化を図ったものであり、
  一般にルータよりもたくさんのポートを持つことができる。

  ルータでは、汎用CPUの上にソフトウェアを動かすことで
  でほとんどの機能を実現しているが、
  レイヤ3スイッチでは、処理の大半を専用のハードウェア(ASIC)
  に任せている。

  ただし、ルータの付加的な機能
  (フィルタリングやマルチプロトコル対応等)は簡略化されている。

  [参考] レイヤ2スイッチ
         レイヤ4スイッチ
         レイヤ7スイッチ

■ ルーティングプロトコル。Routing Protocol。

  インターネットワーク上のルータ同士が、
  経路制御に必要な経路情報を交換するためのプロトコル。

  ルータは起動時には、自身に直接接続されたネットワークしか認識しない。
  しかし、このルーティングプロトコルを用いることにより、
  ルータは他のルータと情報交換を行い、
  リモートネットワークに到達するための経路を探索し、
  また複数の経路の中から最適の経路を選択することができる。

  ルーティングプロトコルは、
  その適用領域によって、IGP、EGPに分類される。
  また使用するアルゴリズムによって、
  ディスタンスベクター型、リンクステート型などに分類される。

  

■ IGP。Interior Gateway Protocol 

  自律システム(AS)内で動作するルーティングプロトコル。
  同じISPや企業の内部でルーティングを行なうために、
  ルータ同士が経路情報を交換するもの。

  たとえば、RIPOSPFなどがある。

■ EGP。Exterior Gateway Protocol

  自律システム(AS)同士の接続に使用されるルーティングプロトコル。
  複数のISPの間でルーティングを行なうために
  ルータ同士が経路情報を交換するもの。

  IGPの場合、次のホップは次のルータだが、
  EGPの場合では、次のホップは次のASである。

  ルータは異なるAS宛てのパケットを受け取ると
  EGPの経路表を検索してネクストホップとなるASを解決する。
  そして、そのASの入口ルータにパケットを届けるために、
  再びIGPの経路表を参照して、そこまでの経路を判断する。

  つまり、EGPのネクストホップを解決するためには、
  IGPの経路表を参照する必要がある。

  実際に世の中で動いているEGPはBGPしかない。
  このため、EGPと言ったらBGPのことと考えて良い。

■ AS。Autonomous System。自律システム。

  1つの管理実体のもとに自律的な管理体制を整えているネットワーク。
  統一的な運用ポリシーによって管理されたネットワーク。
  例えば、会社や大学組織のネットワーク、ISPのネットワークなど。

  インターネットにつながるサブネットの数は、億単位にまで及び、
  これらすべてをルーティングテーブルに保持することは難しい。
  このため企業やISPのネットワークを1つのグループとして扱う。
  このグループをAS(自律システム)と呼ぶ。

  個々のASには、16ビットからなる固有の番号が割り当てられる。
  たとえば、IIJ=AS2497、NTTコミュニケーションズ=AS4713、といった具合である。
  このAS番号は、IANAが全世界で一意になるように管理しており、

  なおAS番号は、ふつうは1つのISPに1つずつ割り当てられるが、
  1つのISPで2つのASを持つこともあるし、
  複数のISPが1つのASを共有することもあるので注意すること。

■ ディスタンスベクター型。Distance Vector Routing Algorithm。

  距離ベクトル方式ともいう。

  ディスタンスベクター型のルーティングプロトコルは、
  ルーティングメトリックとしてホップ数を採用している。
  ホップ数が最小のルートを最適ルートと判断する。

  個々のルータは、
  隣接ルータと定期的にルーティングテーブル全体を交換する。
  このルーティングテーブルにはネットワークアドレスと、
  そこに到達するためのホップ数の情報が含まれている。

  ルータは隣接ルータから情報を受け取ると、
  その情報を元に自らのルーティングテーブルを更新するとともに、
  さらにこれを次のルータに伝えていく。

  ディスタンスベクター型プロトコルは、
  リンクステート型と比較して、計算が単純なため、
  小規模ネットワークでは、広く使用されている。

  しかし、以下のような欠点があるため、
  大規模なネットワークではまったく使われていない。
  - 許容される最大ホップ数が少ない。
  - 収束までの時間が長い。
  - ルーティングループが発生する。

  ディスタンスベクター方式のルーティングプロトコルには、
  たとえばRIPIGRPなどがある。

■ リンクステート型。Link-State Routing Algorithm。

  リンクステート型のルーティングプロトコルは、
  メトリックとしてコストを採用しており、
  コストが最も小さいルートを最適ルートと判断する。

  ここでコストとは、
  ネットワーク管理者が各ルータのインターフェースに設定する値であり、
  通常はインターフェースが接続されたリンクの帯域幅を反映する。

  リンクステート型プロトコルのルータは、
  他のルータとリンクステートと呼ばれるメッセージを交換する。
  リンクステートには、各ルータが接続しているリンクの状態、
  それらのリンクのネットワークアドレス、コストなどの情報が含まれる。

  リンクステートを受け取ったルータは、その情報に基づいて、
  インターネットワーク全体のネットワーク構成を把握し、
  全ルータとリンクを配置した地図に相当する表を作成する。
  これをリンクステートデータベースという。

  そして各ルータは、このデータベースから、
  自身を基点とした最短パスツリーを作成するとともに、
  これを元にルーティングテーブルを作成。
  実際のパケット転送時には、このルーティングテーブルを参照する。

  リンクステート型は、各ルータが、
  インターネットワーク全体のトポロジを把握しているので、
  ネットワーク構成が変化した場合でも収束が非常に早い。
  比較的大規模なネットワークにも対応できる利点がある。

  ただし、リンクステート型プロトコルには、
  ディスタンスベクター方式と比較して計算が難しく、
  またより広範囲に渡ってトラフィックを送受信しなくてはならない。
  といった欠点もある。

  リンクステート方式のルーティングプロトコルには、
  たとえばOSPFなどがある。

■ ルーティングメトリック。Routing Metric。

  ルーティングプロトコルが
  最適経路を決定するときに判断材料に用いる数値のこと。
  ルーティングテーブルの中に保持される。

  具体的にどのような数値をメトリックとして採用するかは、
  ルーティングプロトコルによって異なる。
  RIPの場合はホップ数であり、OSPFの場合はコストであり、
  両者とも、その値が最小のルートを最適ルートと判断する。

  このほかにも、プロトコルによって、
  帯域幅やコミュニケーションコスト、遅延、負荷、MTUおよび信頼性
  などの値が使われることがある。

■ ルーテッド・プロトコル。Routed Protocol。

  ルーティングプロトコルの対語。
  経路制御の対象となるプロトコル。

  ルーティングプロトコルは経路情報を収集し、
  最適経路を判断するために使用されるが、
  ルーテッドプロトコルは、こうして判断された最適経路に従って
  ルーティングされるプロトコルである。

  例えば、IPIPXのことをいう。

■ 経路選択の手順。

  ルータがルーティングテーブルを参照して、
  最適経路を選択するときには、次の手順に従う。

  (1) ルーティングテーブルから、
      目的ネットワークへの経路情報を検索する。

  (2) 目的ネットワークへの経路情報が1つも存在しない場合は、
      あらかじめ指定されたデフォルトルートへルーティングする。

  (3) 目的ネットワークへの経路情報が1つだけ存在する場合は、
      その経路にルーティングする、

  (4) 目的ネットワークへの経路情報が複数あった場合には、
      それらのプレフィックス長を比較し、
      大きい方を選択する(=ロンゲストマッチの法則)。

  (5) プレフィックス長が同じの場合は、
      より優先順位(プロトコルディスタンス)の高いプロトコルが提供する
      情報を選択する。

  (6) 同じプロトコルによる経路情報の場合には、
      メトリックにより適切な判断をする。

  

■ ロンゲストマッチの法則。最長一致の法則。

  ルーティングテーブルある経路を検索した場合に、
  包含される経路が2つ以上ある場合に、
  プレフィックス長の大きいほうを、より信憑性が高いと判断して、
  選択するというルール。

  たとえば、経路表で、192.47.177.8を検索して、
  192.47.177.0/24と192.47.177.0/25とが見つかった場合、
  プレフィックス長の大きい/25への経路を優先するということ。

■ プロトコルディスタンス。

  同じネットワークへの経路を複数持っている場合に、
  どれを採用するかをプロトコルの優先度によって選ぶ方法。
  ルートプリファレンスとも呼ぶ。

  下記にJuniperで採用されているプロトコルディスタンスの値を記す。
  値が小さいほど、優先度は高い。

  +---------------------------------+-----------------------+
  | 情報源                          | 優先度                |
  +---------------------------------+-----------------------+
  | 接続されているインターフェース  |                    0  |
  +---------------------------------+-----------------------+
  | スタティックルート              |                    5  | 
  +---------------------------------+-----------------------+
  | MPLS                            |                    7  | 
  +---------------------------------+-----------------------+
  | OSPF (内部)                     |                   10  | 
  +---------------------------------+-----------------------+
  | RIP                             |                  100  | 
  +---------------------------------+-----------------------+
  | OSPF (外部)                     |                  150  | 
  +---------------------------------+-----------------------+
  | BGP                             |                  170  | 
  +---------------------------------+-----------------------+

  Ciscoの場合は、これをアドミニストレーティブディスタンスと呼ぶ。
  詳細はこちら。

■ フローティングスタティック。Floating Static。

  ダイナミックルーティングによる経路のバックアップ経路として、
  スタティックなルーティング経路をあらかじめ設定しておき、
  回線障害などの発生によりダイナミックルートが消えたとき、
  すばやく切り替えられるように設定しておくこと。

  具体的には、優先度の低いスタティックルートを作成し、
  より優先度の高いRIPやOSPFのダイナミックなルートで上書きしておく。
  すると、通常は優先度の高いダイナミックルートが選択されるが、
  回線障害などでダイナミックな経路が消えた瞬間に、
  自動的にスタティックのルートによるルーティングが開始される。

  フローティングスタティックは、
  ルーターが特段の機能(プログラム)として備えているわけではなく、
  たんなる運用/設定ノウハウに相当するものだが、
  有用なため、よく使われている。

以上。

2004/03/24 pm


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