（ｐ０４）序章 前史３
アスカ人の間で精錬法が広まると自前でも銅を採 掘するようになった。福建省にある武夷山脈は銅山
がいたる所に存在し、中には天然に鉱床が露出して いるような場所もあり、当時の原始的な技術をもって
しても採掘は可能だった。
東シナ海大陸に移住したアスカ族はＢＣ一万八千
年期に世界で最初に新石器時代を迎えた。銅器を 石器で研磨する過程で副産物として磨製石器が誕
生した。
銅器は鏡以外に鏃や釣針・ナイフなどが作られた が、実用に使われたのは釣り針くらいで、その他は
祭祀用の域を出なかった。硬度の点で石器や骨器 の方がはるかに優れていたし、安価だったので実用
的だった。
当時すでに交易のためにイモ貝や真珠などが貨幣 として使用されていた。銅の鏃や釣針も貨幣の準ず
る機能があった。
東シナ海大陸は多くの族長が支配する部族社会
だったが、ＢＣ一万七千年期になり、銅鏡の普及とと もに、それを保持する族長を祭主と認め、周りの部
族が帰依するようになった。本来の銅鏡所有者であ る太陽祭祀族はもともと数十名単位で生活し、しか
も沿岸部にしかおらず、アスカ人に同化され消滅し ていた。
沖縄に渡ったムイ族の首長も太陽祭祀族の首長の 娘と婚姻し、誕生した長男をムイ族の首長に、長女
を太陽祭祀族の首長にし、両部族の融合を図った。
琉球諸島間や台湾、東シナ海大陸、スイジン島、さ
らにはルソン島、スンダランドとの交易も盛んになり 、ニライ島はその中継地として栄えた。
漁師、農民、祭司、職人以外に、新たに商人・軍人 ・役人・運送業などの職種が成立した。貨幣制度が
複雑になると、取引を記録する必要が生じ、数字が 考案され、やがて文字も誕生した。
かくしてＢＣ一万六千年にはニライ島に世界最古の 文明が誕生するに至った。
ニライ島の首長は日子（ヒコ）と呼ばれた。日子は太 陽の霊が憑依することのできるシャーマンで、その
能力は世襲するものと考えられていた。
日子を盟主と仰ぐ部族はニライ島と海峡を隔てて隣
接していたカナイ島を中心に数百に及び、人口も三 十万人を越えた。
日子の権力基盤は強固なものではなく、政治は各族 長間の合議制で行われた。
合議に参加する族長の数が増えるにつれて、遠隔 の地の族長が参加困難になり、自分の代わりに代
議員を送るようになった。この習慣はすぐに広まり、 合議は原始的な議会の形態をとるようになった。
合議に本来の族長が出席しなくなったので、日子も 直接参加することをやめ、自分の長男を代理にたて
ることにした。長男は御子（ミコ）と呼ばれた。
ＢＣ一万五千年期には世界中の各地で都市国家が
発生していた。特に際だって優れた文明はカリブ海 上の巨島に誕生したアトランティス文明だった。
ＢＣ一万四千年期になると、東シナ海大陸に強力な 中央集権国家ができた。平野のほとんどは湿潤な
沼沢地で、水稲作が大いに広がり、膨大な人口を養 えるようになった。国家間の強弱の差を生み、やが
て強力な中央集権国家がいくつか誕生した。
最大の国家バンコ帝国は、長江下流域にあった多く
の王国を服属させ、支配人口は千万人を超えるにい たった。
この帝国は自国の食料を確保するため周辺の諸
国の領地を盛んに侵犯したので、潤沢な平原は抗 争の地となった。
また、南方の台湾海峡付近には人口が八百万人 を越えるジョカ王国が出現し、バンコ帝国と対抗した
。
一方中国大陸北部からは、顔の偏平な新モンゴロイ ド系の部族が侵入してきた。
彼らは中央アジア平原からやって来た遊牧民だっ た。彼らは平素は黄河周辺の平原で牧畜生活を行
っていたが、干ばつや天候異変などで牧草の状態 が悪い年には深刻な飢饉に見まわれた。
そのような緊急時には族長たちが集合し談合して 、徒党を組んでアスカ人国家に侵入した。
彼らは優れた騎馬技術による急襲を得意としたので 、アスカ人は手を焼いた。
目標にされた農村は一方的に襲撃され、軍隊が出 動したときには、彼らはすでに平原に去っているとい
うような悪循環が続いた。
アスカ人の王達は農閑期に軍隊を組織して遊牧民
族の討伐にあたったが、定住する習慣のない遊牧 民相手になかなかまともな軍事行動はとれなかった
。逆に行軍に疲れて退却するとき、待ち伏せされ逆 襲されたりして、多くの遠征は失敗に終わった。
アスカ人同士や遊牧民相手の戦闘もしばしば行わ れたが、温暖な天候のもとに牧歌的な時代がしばら
く続いた。
