(p14)第三章 新ニップール国3

BC二千二百七十八年、新ニップール軍は二万の軍 勢を率いてハラ国との国境地帯であるインダス川と サトレジ川の合流地点まで進撃していた。
この侵攻を予期したハラ国側はラーマ王の義弟のバ ラタ将軍とドラビダ族の大王ハヌマットが三万の軍勢 で対陣していた。
軍を直接指揮していたラーバナは、自軍よりも遥か に多い敵軍を確認したが、こちらが突撃すれば総崩 れになるだろうと高をくくって、そのまま突撃命令を出 した。 
ところが、ハヌマット指揮のドラビダ軍は勇敢で、一 歩も引かないどころか、先頭にいた飛槍部隊は、新 ニップール軍の放った焼夷弾をものともせず、飛槍を 発射した。
威力は飛槍のほうがまさったので、たちまち新ニップ ール軍の傭兵達は浮き足だち、蜘蛛の子を散らすよ うに戦線を離脱してしまった。
やむなく退却を決意したラーバナは、ランカ市内に逃 げ戻り、城門を閉ざした。
 追撃してきたドラビダ軍はランカ市を包囲し気勢を あげた。日和見を決め込んでいた周辺の豪族達は、 ドラビダ軍の優勢を見て続々と包囲軍に参加した。
包囲して五日後には、ドラビダ軍の人数は十万を越 えた。
 一方、市内の新ニップール国軍はじり貧状態に陥 り、夜陰に紛れて城外に逃げ出す者が後を絶たなか った。
ついに城内の兵が五千人を割り込んだ時、ラーバナ は秘密兵器「イシカ」を使用する決断をした。
 イシカは四百年ほど前ニップールの科学者が発明 した毒ガス兵器で、食塩水を電気分解して得た塩素 ガスを壷に詰め込み、投石器で敵陣に放り投げると いうものだった。 
 この当時の電池は十五センチほどの素焼きの壷に 希塩酸などの電解液を入れ、その中に銀や亜鉛な どの金属を入れて電気を発生させる幼稚なもので、 当初は金の鍍金をする目的で開発された。
 副次的に発生した塩素ガスに強い毒性があること がわかり、兵器として開発がなされたわけである。
 ただ、当時の戦は敵に自軍の武勇を誇ることが大 事とされていたので、なりふりかまわない戦闘の仕 方は敬遠される傾向にあった。
チヤマトに付き従ってランカ市にやって来た科学者の 中にこの製法を知っている者がいたので、チヤマトは 万が一の時のためにイシカを作らせておいた。
ただ、この兵器のイメージは悪く、使用する側は相手 から卑怯者と罵られる覚悟が必要だった。
 ニップールがアッカド軍に攻撃を受け陥落した際に も、結局この兵器は使われなかった。卑怯なイメー ジもさることながら、実際に使用すると風向き次第で 敵味方の区別がなく多数の死者が出る恐れもあった からである。
ラーバナは城壁周辺の市民を中央部に避難させ、 城壁の風下に布陣していたドラビダ軍にイシカを投 下した。ガスはうまい具合に城内には流れず、ドラビ ダ軍の方に流れていった。
ドラビダ軍の兵士は黄緑色のガスを浴びて、喉を掻 きむしって苦しんだ。チアノーゼをおこして痙攣をおこ す者もいた。
不快な刺激臭も兵士達の戦意を喪失させた。混乱 状態のドラビダ軍に城兵達は矢を射かけた。
 防御するゆとりを失ったドラビダ軍の兵士達は次々 と射殺されていった。この際戦闘の仁義などにかま っても仕方ないので、矢にはコブラの毒が塗ってあっ た。
ドラビダ人の兵士達は、この不吉な黄緑色のガスを 魔王ラーバナの魔法と恐れて、上官の制止を振り切 って逃げだした。
かくして、ドラビダ軍の包囲網は瓦解し、ランカ市は 救われた。
城内の市民達は塩素ガスに冒され、目を充血させ 咳や鼻水を流しながらも、ラーバナの徳を讃えた。
ラーバナは崩壊した自軍を立て直すために、再び傭 兵を集めだした。
 毒ガス兵器の威力にすっかり心酔してしまったの で、ハラ国軍を壊滅させるために、より強力な新兵器 を作るよう科学者達に檄を飛ばした。
逃げ帰ったハヌマットの報告を聞いたラーマは相手 が禁断の兵器イシカを使ったことに激怒した。
「敵がそのような手段に出るのならば、こっちにも考 えがある」
ラーマ王は究極兵器「ゾラフ」を使用しランカ市を徹 底的に破壊する決断をした。
 ゾラフは一万年前のニライ国で発明されたという伝 説の兵器だった。
 ハラ国は古代文化の研究が盛んで、ゾラフの復元 にも成功していた。
ゾラフとは硝安油剤爆薬のことで、その威力は当時 一般に知られていた黒色火薬の十数倍に及んだ。
 ランカ市はインドで最も美しい都市だった。その都 市を破壊するには忍びないものがあったが、密偵の 報告によると、ラーバナは調子に乗って、さらに邪悪 な兵器を開発しているということだった。
 それは「パスパタ」という榴弾で、黒色火薬の詰ま った黄銅製の壷の中に鉄の破片を仕込み、それを 投石機で投下して爆発させ、飛び出した鉄の破片に よって相手を蜂の巣にする兵器だった。
 ランカ市の科学者はパスパタの信管装置も発明し た。
 彼らは硝酸に水銀を溶かした溶液に蒸留したエチ ルアルコールを反応させ雷汞を精製する技法を持っ ていた。
 パスパタの信管装置にはこの雷汞が使用された。
 ただし、雷汞の精製度は悪く、運搬中に不用意に 衝撃を与えると暴発を起こす物騒な代物だった。

BC二千二百七十七年、ラーマ王の命令を受けたバ ラタ将軍は五万の兵を率いて再びランカ市を包囲し た。
 新ニップール軍はまたもや篭城を余儀なくされた。
ハラ国軍は前回の失敗に懲りて、城壁から一キロも 離れた場所に布陣し、しかも風下に回るのを避けた 。
城壁から遠くに布陣されたので、新ニップール軍はイ シカはおろかパスパタも使えず、手持ち無沙汰の状 態に置かれた。
 布陣して三日後、ハラ国軍は風上から城壁に接近 し、アシャニという黒色火薬を利用した発射装置から 鋳鉄製の砲弾を投射した。
 砲弾は一キロ離れた城内に到達した。城兵達は爆 弾が落下したと思い退避したが、爆発はせず中から 黒色の粘液がこぼれてきた。
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